ごあいさつ

その時、私は自分の住んでいる土地、麻布に対する愛着と興味を失ってずいぶん長く経っていたような気がしました。

子供の頃に遊んだ公園や、優しかったタバコ屋のおばあちゃんの顔、近所にあった共用の井戸のことなど、いまでも子供の頃の美しい思い出は、ことごとく麻布の風景や人と結びついています。

にもかかわらず、大人になった私は「道は車で通り抜けるもの」、「家は夜眠る場所」程度しか考えなくなっていきました。仕事や恋に忙しすぎたのかもしれません。家の周りの風景が少しずつ変化していくことに、目を向けることを私は止めてしまっていました。

私はある日ふと気づきました。いつの間にか町はビルだらけになり、パン屋さんも魚屋さんも豆腐屋さんもなくなっていることに。隣のアカネちゃんも同じ町内の英ちゃんも、みんなどこかに引っ越していってしまい、知っている人がいなくなってしまったことを。そういう私だって、もうあの町にはいません。

急に私は何だかとても寂しくなりました。いろんな人が町の外からやってきて、勝手に町をどんどん壊しているような気がしたのです。町は一人のものじゃありませんから、日々変化していくのは当然なのですが、ちょっとこれは違うんじゃないか、と。

古いことだけがいいことだとは思いません。人間は快適さを追及し、より効率的な町作りを行ってきたはずで、その歴史を否定するつもりは毛頭ありませんし、この「麻布細見(azabusaiken.ttcbn.net)」のページに、古いものばかりを詰め込んでいくつもりもありません。どんどん新しいものも放り込んでいきたいと思っています。

でも、麻布に関する新しい情報は、雑誌やウェブやテレビなどで、そこら中に溢れかえっていて、今すぐに私が発信しなくてもいいかもしれない、とも感じています。

それなので、まずは古い話からスタートしました。ある程度ページが完成してから公開することも方法としてはあったのですが、見切り発車が簡単に出来るのもウェブの特性ですから、堂々と見切り発車させてもらいます。旧町名は、もともと住んでいた人は当然知っていますが、住居表示の実施から30年以上が経過し、気軽に調べるというわけにはいかなくなってきていますので、まずとっかかりとして、面白いかなと思っています。

徐々にコンテンツも増えてきましたので、見た目も少しずつ綺麗にしようと思っています。まだまだ至りませんが、よろしくお願い致します。

ではどうぞ、ごゆっくり。

2003年11月29日 「麻布細見」執筆者兼カメラマン兼管理人 宮村霞(仮名)
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